ラザレフ国に集まる兵士達、全てが邪悪な種を飲まされて、国を離れた。世界の全てを手中に入れろという命を受けて西へ東へ、南へ北へと馬を走らせた。
ほくそ笑むシャウザー王の傍らで、黒鳩の目を通してツスグスも笑っている。
「あはは、この世界はモジューヌと僕達二人のものになるよ」
海を渡り、南の小さな島へ辿り着いたジョウリー、ルマーロ親子、三人は陽魔術師を探して、島人から情報を集めた。島人達皆が口を揃えて言う。
「魔法の剣を作る男がここの島に居るという話を聞いた剣士がここへ訪れた事はあるが、会った者は居ない。ただの噂話だよ」
焦れたジョウリーが、白いドラゴンを見なかったか?と聞くと島の真ん中あたりに消えたと言われた。
「でも、あそこへ行くのは、、諦めた方がいい」
言われてジョウリーが即座に問いかけた。
「何故だ」
「ここから先の森は、まやかしの森なんだ。進むほどに、嫌な昔を思い出させられて、結局、疲れ果てて帰って来る」
「へえ、そうなんだ」
ジョウリーは気にする事無く、島の中央を目指し、森の中へ進んだ。ルマーロ親子も後を追った。
一歩森に入ると、ルマーロは動きを止めた。トレルブが作っている結界が進むのを拒む。息子のウェッピィが生まれた日の事が、ルマーロの脳内で鮮明に描かれた。
春先のアリデ・ラードで、外は晴天なのに、ルマーロの心は激しい雨に打たれていた。妻が顔をクシャクシャにして泣いている。
「あ、足がね、、ま、曲がっているの」
ルマーロは予想もしなかった言葉に口ごもった。まるで、雷に打たれたように激しい痛みに襲われた。
「春先に生まれる子に多い病気みたいでね。腱が短いんだって、可愛そうだよ」
言われたルマーロが口を開いた。
「息子の足を見せてくれ」
ルマーロは、息子の足を触って薬草程度ではどうにもならないなと感じながらも、無理やりに微笑んだ。
「確かに可哀そうだ。でも、僕はいつもこの子に微笑んであげるから君もこの子に微笑んであげてくれないか?おぎゃあと泣いて生まれた右も左も解らない世界で、母親の君が不安そうな顔をしていると、息子はもっと不安になる。でも、君が微笑んでくれれば、きっと息子も安心できる。だから、微笑んであげてくれないか」
ルマーロは語り続けた。
「生まれた瞬間に痛みを背負った。きっと、この子は強くなる。僕よりも、誰よりも強く。だから心配はない」
ルマーロは遠い昔を振り返り、何故あの日の事を今思い出すのか?と考えた。
(なるほど、辛い過去を思い出させられるとは、これか)
息子の頭を撫でて微笑んだ。