Justice of sword 剣の正義

魔法の剣にまつわるオリジナルファンタジーストーリーです。

白ガラスクレイバーの冒険 第一章 暗黒魔道衆の封印#7

遠くでうっすらと空が明るさを増し始める朝、目覚めたヨウガイは小川で顔を洗った。
念を込めて小魚を気絶させて焚火で串焼きにし、朝食を用意した。

懐から道標鏡を取り出すと砂地の先の森の方を指す1面が光っている。
(進んでも良いようだ)
ランダの手綱を引いて草地へと連れ歩いた。
砂地へ進む前にランダの食事を済ませる。
ランダが草を食べている間、のんびりと焼き魚を食べながら考えた。
この先、確実に訪れる戦いの事を。
自然に体が動く、飛び立って右足を縦に蹴り上げ、直後左足を蹴り上げる。
右の拳、左の拳、飛び上がり体を捻り、斜めに回転しながら空を切り裂くように蹴る。
「唸れ右竜!吠えろ左竜! 」
右拳から金色のドラゴンの形をした炎、左拳から銀色のドラゴンの形をした炎が空に舞う。
「この技も通用しない相手か」
独り呟いた。敵は人間ではない。魔物を相手に戦う事になる。考えるだけで体が震える。
首を横に振ると、ランダに跨り砂地を進んだ。
砂地の熱さは予想以上。水筒を何度も口にあてた。そのたびに、水を飲む事に何の意味も無いかのように汗が吹き出す。
それでも長い時間黙々とランダに跨り歩を進めた。
太陽が地平線に消える直前、ヨウガイの脳内に直接声が届いた。
「そろそろ、寝床が必要じゃろ?ワシが案内しよう」
ヨウガイが驚いた顔をした。
(何だこの声は?どこから話しかけている)
「ここじゃよ。眼の前の不細工な馬の頭の上を見ろ」

ヨウガイは更に驚いた。
「トカゲ?トカゲがしゃべっているのか」
トカゲが飛び跳ねた。
「トカゲではない!砂トカゲじゃ」
「どっちにしてもトカゲはトカゲだろ」
「何を言う!砂トカゲは砂地の精霊じゃ。一緒にするでない」
面倒だなと思いながらヨウガイが問いかけた。
「で?どこへ進めばいい?道案内を頼むよ」
「左へ真っ直ぐ、この馬の足で2千歩進むと小さな岩山がある。その岩山に雨風しのげる洞穴がある。そこへ進むのじゃ。この砂地は夜中に必ず砂嵐が吹き荒れる。命ある者には耐えられない程の砂嵐じゃ。急げ!夜目が利くワシが案内する」
「わ、解った」
ヨウガイは砂トカゲの話を信じる事にした。
星と月明りだけが頼りの暗闇で砂地を進む中、砂トカゲがヨウガイの記憶を辿った。
「幼い頃に父親を失い、それから寺院で暮らしていたようじゃな」
ヨウガイは驚いた。
「何故それを?俺の心を読めるのか」
「精霊じゃからな。何でもお見通しじゃ。戦う為に寺院を出た事もな」
しばらくして岩山の洞穴に辿り着いた。
直後、激しい砂嵐の轟音が聞こえた。
砂トカゲの話は嘘ではなかった。疑っていたら命は無かった。
「ありがとう。助かったよ」
砂トカゲに心から感謝した。

白ガラスクレイバーの冒険 第一章 暗黒魔道衆の封印#6

僧侶ヨウガイはランダと呼ばれる牛のような巨体の馬に跨り、アスガンド寺院を出て山を降りた。

しばらくして、森を抜けた僧侶ヨウガイの眼の前に、身の丈3倍くらいの巨岩が無数に点在する光景が広がった。
視界を塞ぐ巨岩の表面には光沢が有り、巨岩と巨岩とで光を乱反射させ日差しが注ぐ方角を曖昧にする。
その為、巨岩と巨岩の間をすり抜ける道は迷路となっている。
アスガンド寺院に辿り着く事が容易では無いのは、このせいだろう。
僧侶ヨウガイは客人が訪ねて来るのを見た事が無い。
途中何度も人骨を見た。恐らく、何日もこの迷路を彷徨ったに違いない。
「この鏡が道を教えてくれる。迷ったらこの鏡の指し示す道を進むと良い」
ダタ法師に渡された道標鏡を懐から取り出した。
八角形の道標鏡の1面だけが光を放つ方へ進むと次の道では違う1面が光輝いた。
(今度はこっちか)
半日程ランダに跨り、道を進んだだろうか?巨岩の迷路を抜ける事が出来た。
遠くに森が見えるが、眼の前には広大な砂地が広がっている。
(夜までに砂地を抜ける事が出来るだろうか?距離感が解らない)
道標鏡を見ると八角形全面の真ん中が光っている。
(今は留まれという筝か?それなら、指示に従おう)

僧侶ヨウガイはランダを止めて地面に降りると辺りを見回した。
(浅い小川がある。水をいただくか)
水筒を持っているが、砂地を越える為には無駄に出来ない。
ランダの手綱を引いて共に小川へと向かった。
両手で水をすくい口にすると心の渇きまで潤う気がした。
ランダも透き通る小川の水を美味そうに飲んでいる。
ヨウガイは泳ぐ小魚を見て念を込めた。
「かあああああっ」
吠えると小魚が気絶して水面に浮かんだ。それを手にすると焚火で焼いた。荷袋に入れている保存食も無駄には出来ない。夜になり、寝そべるランダをベッド代わりにして眠りについた。
ランダの柔らかな体毛が心地良い。

同時刻、砂地で眠るトカゲが眼を開けた。
(山を降りる事が許されない寺院の僧侶が近くに居るのか?なるほど、忌まわしい奴らが動き出そうとしているというわけか。ふむ、500年の時を経て、血戦が起こるというのじゃな?ならば付き合わねばなるまいのう)
僧侶ヨウガイの気配を感じた砂地のトカゲが胸の内で呟いた。

白ガラスクレイバーの冒険 第一章 暗黒魔道衆の封印#5

朝、南西の山の頂上に建つアスガンド寺院で。

ダタ法師が僧侶ヨウガに告げた。

「昨夜、暗黒魔道衆の一匹目が封印を解かれた。場所はモルガー国のようだ。この壺を3つ持って向かってくれ。後から他の僧侶132名全てを送り込む」

「解りました」

ヨウガイが意を決した。

 

山の集落で、予知夢を見たディアマンディが震えている。

「やっぱり… 人間じゃなかった。恐ろしいバケモノ」

レウリーが眉間に皺を寄せた。

「とりあえずクレイバーの情報を待っていよう」

 

昨日、情報収集の為に飛び立った白ガラスのクレイバーと意思をつなぐ全ての白ガラスは世界各地へ飛び立っている。

モルガー国の上空に辿り着いたクレイバーが目を丸くした。

そこにモルガー国は無く、城も城下町も何も無いただの砂地と化していた。

何をどうすれば国が消えるというのか?

その砂地を小人が歩いている。南西を目指しているようだ。

クレイバーは、この小人を注意深く観察する事にした。

小人が歩くその先にあるのはスパンク城。

城門の前に辿り着いた小人が門に触れるとサラサラサラ… と、門が砂となり崩れた。

(嘘だろ?何なんだこの男)

クレイバーは驚愕した。

突然現れた小人に場内の兵士達が剣を構えて襲い掛かった。

小人は動じる事も無く、黙って斬られた。

確かに斬られた。

なのに… 剣は小人の体をすり抜けただけで何事も起こらない。

クレイバーは黙って見続けた。

小人が斬りかかった兵士に手のひらで触れた。

兵士もまた砂となってサラサラサラ… と砂となり崩れた。

次から次に襲い掛かる兵士達に斬られても斬られても何事も無く、次々に兵士達を砂に変えていく。

(剣で斬る事も出来なくて、手のひらで触れられると砂に変えられる?嘘だろ?こんな相手とどうやって戦えばいい?レウリーでも勝ち目が無いぞ)

小人が吠えた。

「我が名はガプー。我ら暗黒魔道衆の仲間を封印した壺はどこにある?黙って差し出せば何もしないが… 差し出せないなら無に帰す」

そう言われても兵士達は抗った。

「めんどくさいなあ」

呟くと、ガプーが城の壁に触れた。

城が砂となり、サラサラサラ… と、崩れ落ちた。

スパンクが一瞬で砂地になった。

クレイバーは震えた。

(こんな恐ろしいバケモノとレウリーを戦わせるわけにはいかない)

ガプーが砂地になった地面に両手を埋めた。

「ここにも無いか」

無表情で呟くと南西へと歩き出した。