遠くでうっすらと空が明るさを増し始める朝、目覚めたヨウガイは小川で顔を洗った。
念を込めて小魚を気絶させて焚火で串焼きにし、朝食を用意した。
懐から道標鏡を取り出すと砂地の先の森の方を指す1面が光っている。
(進んでも良いようだ)
ランダの手綱を引いて草地へと連れ歩いた。
砂地へ進む前にランダの食事を済ませる。
ランダが草を食べている間、のんびりと焼き魚を食べながら考えた。
この先、確実に訪れる戦いの事を。
自然に体が動く、飛び立って右足を縦に蹴り上げ、直後左足を蹴り上げる。
右の拳、左の拳、飛び上がり体を捻り、斜めに回転しながら空を切り裂くように蹴る。
「唸れ右竜!吠えろ左竜! 」
右拳から金色のドラゴンの形をした炎、左拳から銀色のドラゴンの形をした炎が空に舞う。
「この技も通用しない相手か」
独り呟いた。敵は人間ではない。魔物を相手に戦う事になる。考えるだけで体が震える。
首を横に振ると、ランダに跨り砂地を進んだ。
砂地の熱さは予想以上。水筒を何度も口にあてた。そのたびに、水を飲む事に何の意味も無いかのように汗が吹き出す。
それでも長い時間黙々とランダに跨り歩を進めた。
太陽が地平線に消える直前、ヨウガイの脳内に直接声が届いた。
「そろそろ、寝床が必要じゃろ?ワシが案内しよう」
ヨウガイが驚いた顔をした。
(何だこの声は?どこから話しかけている)
「ここじゃよ。眼の前の不細工な馬の頭の上を見ろ」
ヨウガイは更に驚いた。
「トカゲ?トカゲがしゃべっているのか」
トカゲが飛び跳ねた。
「トカゲではない!砂トカゲじゃ」
「どっちにしてもトカゲはトカゲだろ」
「何を言う!砂トカゲは砂地の精霊じゃ。一緒にするでない」
面倒だなと思いながらヨウガイが問いかけた。
「で?どこへ進めばいい?道案内を頼むよ」
「左へ真っ直ぐ、この馬の足で2千歩進むと小さな岩山がある。その岩山に雨風しのげる洞穴がある。そこへ進むのじゃ。この砂地は夜中に必ず砂嵐が吹き荒れる。命ある者には耐えられない程の砂嵐じゃ。急げ!夜目が利くワシが案内する」
「わ、解った」
ヨウガイは砂トカゲの話を信じる事にした。
星と月明りだけが頼りの暗闇で砂地を進む中、砂トカゲがヨウガイの記憶を辿った。
「幼い頃に父親を失い、それから寺院で暮らしていたようじゃな」
ヨウガイは驚いた。
「何故それを?俺の心を読めるのか」
「精霊じゃからな。何でもお見通しじゃ。戦う為に寺院を出た事もな」
しばらくして岩山の洞穴に辿り着いた。
直後、激しい砂嵐の轟音が聞こえた。
砂トカゲの話は嘘ではなかった。疑っていたら命は無かった。
「ありがとう。助かったよ」
砂トカゲに心から感謝した。