Justice of sword 剣の正義

魔法の剣にまつわるオリジナルファンタジーストーリーです。

白ガラスクレイバーの冒険 第一章 暗黒魔道衆の封印#8

白ガラスクレイバーが光の魔法使いトレルブの住む南西の小さなを訪ねた。
薬草に水をやるトレルブが驚いた顔でクレイバーに問いかけた。
「お前は確か… レウリーに使える者だったよな?何をしに来た」
クレイバーの元へ白いカラスが集まり人の型に姿を変えた。

「驚かせてしまったようでしたらお詫びします。この姿にならないと人間の言葉を使えないので」
「ふむ、で?どうした」
トレルブが眉間に皺を寄せる。
「恐ろしい邪悪な者が暴れています。その者は剣で斬る事も叶いません。レウリー様がどんなに強くても勝ち目がありません。どうしたら良いか教えを乞いたいのです。私の眼を覗いてはいただけませんか?私の記憶を覗けば、いかに恐ろしいバケモノか?解っていただけるかと思います」
言われてトレルブがクレイバーの瞳を覗き込み暗黒魔道衆ガプーが暴れる様子を見た。
「コレは… レウリーでも無理だ」
「どうすれば良いでしょう?黙って世界の終わりを待つしかないのですか」
トレルブは遠くを眺めた。
「少し考えさせてくれ。この錆びだらけの剣を研いでいろ。それが使えるようになる前には何か考える」
そう言われ渡された剣を手にしたクレイバーが研ぎ場に案内された。
「研ぎ終わるまで、ここから出る事を禁じる」
研ぎ場のドアの鍵が閉まった。
クレイバーは、黙って渡された錆びだらけの剣を見つめた。
剣を研いだ事なんてない。
何をどうしろというのか?
慣れない手つきで錆びだらけの剣を研ぎ始めた。


幾つの夜が過ぎただろう?
食べ物も与えられず、ただ剣を研ぐ日々を過ごした。
いい加減外へ出たい。
とにかく何かを食べたい。
そう思っているとドアが開いた。
やっと、トレルブが食事を用意してくれた。
「お前とレウリーはどういう関係なんだ?飯も食わせてもらえないのに、錆びだらけの剣を研ぎ続ける理由は何だ?教えてくれ」
言われてクレイバーがトレルブを睨んだ。
「私はこれまで、レウリー様に会うまで、全ての者に忌み嫌われて生きてきた。でも、レウリー様に会って全てが変わった。世界中が美しく光輝いて見えるようになった。だから… レウリー様の役に立ちたい。それだけです」
それを聞いた光の魔法使いトレルブが微笑んだ。
「ほう、そうかそうか。己の手を見てごらん。銀色に輝いているだろう?己自信がツルギに変わろうとしている。研ぎ続けろ。もっともっと、心を研ぎ澄ませ。そうすればお前とレウリー、ひとつになれる」

 

白ガラスクレイバーの冒険 第一章 暗黒魔道衆の封印#7

遠くでうっすらと空が明るさを増し始める朝、目覚めたヨウガイは小川で顔を洗った。
念を込めて小魚を気絶させて焚火で串焼きにし、朝食を用意した。

懐から道標鏡を取り出すと砂地の先の森の方を指す1面が光っている。
(進んでも良いようだ)
ランダの手綱を引いて草地へと連れ歩いた。
砂地へ進む前にランダの食事を済ませる。
ランダが草を食べている間、のんびりと焼き魚を食べながら考えた。
この先、確実に訪れる戦いの事を。
自然に体が動く、飛び立って右足を縦に蹴り上げ、直後左足を蹴り上げる。
右の拳、左の拳、飛び上がり体を捻り、斜めに回転しながら空を切り裂くように蹴る。
「唸れ右竜!吠えろ左竜! 」
右拳から金色のドラゴンの形をした炎、左拳から銀色のドラゴンの形をした炎が空に舞う。
「この技も通用しない相手か」
独り呟いた。敵は人間ではない。魔物を相手に戦う事になる。考えるだけで体が震える。
首を横に振ると、ランダに跨り砂地を進んだ。
砂地の熱さは予想以上。水筒を何度も口にあてた。そのたびに、水を飲む事に何の意味も無いかのように汗が吹き出す。
それでも長い時間黙々とランダに跨り歩を進めた。
太陽が地平線に消える直前、ヨウガイの脳内に直接声が届いた。
「そろそろ、寝床が必要じゃろ?ワシが案内しよう」
ヨウガイが驚いた顔をした。
(何だこの声は?どこから話しかけている)
「ここじゃよ。眼の前の不細工な馬の頭の上を見ろ」

ヨウガイは更に驚いた。
「トカゲ?トカゲがしゃべっているのか」
トカゲが飛び跳ねた。
「トカゲではない!砂トカゲじゃ」
「どっちにしてもトカゲはトカゲだろ」
「何を言う!砂トカゲは砂地の精霊じゃ。一緒にするでない」
面倒だなと思いながらヨウガイが問いかけた。
「で?どこへ進めばいい?道案内を頼むよ」
「左へ真っ直ぐ、この馬の足で2千歩進むと小さな岩山がある。その岩山に雨風しのげる洞穴がある。そこへ進むのじゃ。この砂地は夜中に必ず砂嵐が吹き荒れる。命ある者には耐えられない程の砂嵐じゃ。急げ!夜目が利くワシが案内する」
「わ、解った」
ヨウガイは砂トカゲの話を信じる事にした。
星と月明りだけが頼りの暗闇で砂地を進む中、砂トカゲがヨウガイの記憶を辿った。
「幼い頃に父親を失い、それから寺院で暮らしていたようじゃな」
ヨウガイは驚いた。
「何故それを?俺の心を読めるのか」
「精霊じゃからな。何でもお見通しじゃ。戦う為に寺院を出た事もな」
しばらくして岩山の洞穴に辿り着いた。
直後、激しい砂嵐の轟音が聞こえた。
砂トカゲの話は嘘ではなかった。疑っていたら命は無かった。
「ありがとう。助かったよ」
砂トカゲに心から感謝した。

白ガラスクレイバーの冒険 第一章 暗黒魔道衆の封印#6

僧侶ヨウガイはランダと呼ばれる牛のような巨体の馬に跨り、アスガンド寺院を出て山を降りた。

しばらくして、森を抜けた僧侶ヨウガイの眼の前に、身の丈3倍くらいの巨岩が無数に点在する光景が広がった。
視界を塞ぐ巨岩の表面には光沢が有り、巨岩と巨岩とで光を乱反射させ日差しが注ぐ方角を曖昧にする。
その為、巨岩と巨岩の間をすり抜ける道は迷路となっている。
アスガンド寺院に辿り着く事が容易では無いのは、このせいだろう。
僧侶ヨウガイは客人が訪ねて来るのを見た事が無い。
途中何度も人骨を見た。恐らく、何日もこの迷路を彷徨ったに違いない。
「この鏡が道を教えてくれる。迷ったらこの鏡の指し示す道を進むと良い」
ダタ法師に渡された道標鏡を懐から取り出した。
八角形の道標鏡の1面だけが光を放つ方へ進むと次の道では違う1面が光輝いた。
(今度はこっちか)
半日程ランダに跨り、道を進んだだろうか?巨岩の迷路を抜ける事が出来た。
遠くに森が見えるが、眼の前には広大な砂地が広がっている。
(夜までに砂地を抜ける事が出来るだろうか?距離感が解らない)
道標鏡を見ると八角形全面の真ん中が光っている。
(今は留まれという筝か?それなら、指示に従おう)

僧侶ヨウガイはランダを止めて地面に降りると辺りを見回した。
(浅い小川がある。水をいただくか)
水筒を持っているが、砂地を越える為には無駄に出来ない。
ランダの手綱を引いて共に小川へと向かった。
両手で水をすくい口にすると心の渇きまで潤う気がした。
ランダも透き通る小川の水を美味そうに飲んでいる。
ヨウガイは泳ぐ小魚を見て念を込めた。
「かあああああっ」
吠えると小魚が気絶して水面に浮かんだ。それを手にすると焚火で焼いた。荷袋に入れている保存食も無駄には出来ない。夜になり、寝そべるランダをベッド代わりにして眠りについた。
ランダの柔らかな体毛が心地良い。

同時刻、砂地で眠るトカゲが眼を開けた。
(山を降りる事が許されない寺院の僧侶が近くに居るのか?なるほど、忌まわしい奴らが動き出そうとしているというわけか。ふむ、500年の時を経て、血戦が起こるというのじゃな?ならば付き合わねばなるまいのう)
僧侶ヨウガイの気配を感じた砂地のトカゲが胸の内で呟いた。