アリデ・ラードから旅に出た薬草研究科のルマーロとウェッピィの親子は、広大なミントグリーン色の湖を船で渡った。ヴァルゴウルを囲む山脈を東から北へ迂回する路。この路は薬草研究科のルマーロが歩いた事の無い旅路だ。世界地図も存在しないこの世界では、自分自身の過去の経験と知識と、知り合った人々から得た情報以外に何かを探す宛は無い。名前さえ知らない、何の手がかりも無い男を探すには、行った事の無い場所を歩く以外考えられない。
船から降りたルマーロ親子は、馬の手綱を引いて岸辺を歩いた。ルマーロは馬に跨ると、ウェッピィの手を引いて後ろに座らせた。
「じゃ、行くよウェッピィ」
遠くにおぼろげに家並みが見える。
「まずは、あそこで情報を集めよう」
息子のウェッピィは、初めての旅に胸の鼓動を高鳴らせている。
「僕とパパが王と王妃を目覚めさせる事が出来る人を見つけられたら、僕達は英雄になれるね」
無邪気に笑うウェッピィを見て、ルマーロは苦笑した。
「そんな簡単な話じゃないぞ。こんな宛の無い旅。お父さん独りだったら、泣きが入るところだ」
「でも一人じゃない。僕がいる。二人だから大丈夫さ」
ウェッピィの言葉にルマーロが微笑んだ。
「それじゃあ、英雄になろうか」
二人を乗せる馬は、見知らぬ国を目指し歩き続けた。
アリデ・ラードの港から馬と一緒に船に乗ったジョウリーは、陸地と並行して船を進めていた。ジョウリーはレウリーがドラゴンに乗り飛び去った場所を見当違いしている。
あの日、レウリーはルケッテを飛び去った後、アリデ・ラードへ向かうと見せかけ、湖を迂回し山の中腹にある集落へ戻っていた。それをジョウリーは知らない。ジョウリーが目指す港は、偶然にもルマーロ親子が目指す国、花の都ローベンが在る港。ほぼ全ての道端には綺麗な花々が咲き誇る。
異様なのは、歩く人々が皆、仮面をつけている事。ローベンでは旅人以外の全ての民に、仮面で生活する事を義務付けており、別名を仮面の国ローベンと呼ばれてもいる。
港に降り立ったジョウリーは、レウリーが身を隠すにはもってこいの場所だと思った。街のあちこちで見かける貼り紙に興味を惹かれた。
仮面武闘会と書かれている。
(コレだ!このイベントだ。レウリーの剣技なら一目で解る!今夜か。夜を待とう)
ジョウリーは泊まる宿を探すと、暇つぶしで街を歩き、観光客向けに仮面を販売している店を見つけた。
レウリーに気づかれないように仮面武闘会を観覧するのに丁度良い。迷わず観光客用の仮面を購入した。